酢だこさん

ネガティブな私は、記念すべき一つ目のダイアリーも暗いお話を書こうとしてました。

 

しかし、ここは景気良く駄菓子のお話しさせて頂きます。

 

タイトルにもある『酢だこさん』

 

小さな頃から私を支えてくれた駄菓子。

未だに手元にあるだけで、シンプルにテンションが上がる程のアイテム。

 

『酢だこさん』の一番の思い出は、私が小学校の頃、祖父と駄菓子屋に行った時の思い出。

 

祖父は今も昔も一貫して、頑固で怒りっぽい人。

あまり得意な人ではなかったが、たまに私の機嫌取りか駄菓子屋へ連れてってくれた。

 

当時私の住んでいる地域で唯一あった駄菓子。

下校後、しばらくして祖父が『お菓子買いに行こう』と言い始めた。

 

もう薄暗いし、何より怒りっぽい祖父が急にそんな事を言い始める。

 

どこか薄気味悪さを抱いたのを覚えている。

 

駄菓子屋に着くと、祖父は私に500円玉を渡し『これで好きなもの買え』と、一言。

 

当時の私にとっては大金も大金。

 

舞い上がりながら、陳列されている駄菓子を選び始めた。

 

チロルチョコうまい棒、粉ジュース、さくらんぼ餅、子供にとっては宝箱である。

 

祖父は自分なりのコースをおすすめしてきた。

 

『色んな駄菓子を少しずつ沢山えらべばいいじゃん』

 

しかし、私は当時から好きなものは一点集中型。

 

他の駄菓子には目もくれず、『これ全部』と酢だこさん1ケースを指さした。

 

祖父も店員さんもびっくりしていたのを覚えている。

 

祖父はうろたえながら、店員さんに

『コレ全部貰えますか?』

と、一応確認を取っていた。

 

私は昂っていた。

あの大好きな酢だこさん。

その酢だこさんが、50枚。

薄くてクリアなトレーに、これでもかとパンパンに入っていた。

 

普段は数枚単位でしか買ったことのない駄菓子。

スーパーマリオの地下のワープゾーンを使ってしまう様な背徳感。

 

それを私は手に入れてしまった。

 

家に帰り、父に報告。

正直、父には

 

『そんなモン買ってもらってんな』

 

と怒られると思ったが

 

『良かったな』

 

と微笑んでいた。

 

いいのねーw

行っちゃいますよーw

 

欲望のタガが外れた私は、夕食前だがパンパンのクリアトレーを開封した。

 

 

その刹那

 

 

祖父が思いもよらぬスピードで、ジャブを繰り出したと思ったら、トレーの中の酢だこさん方を鷲掴みしていった。

 

私は状況が理解出来ず、笑った。

 

『何で?何?』

 

20はいかれた酢だこさんを掴み、誇らしげに祖父は言った。

 

『俺が買ったから貰う』

 

 

そうだ。

 

彼は祖父だった。

 

私はその時、当時の日本社会を見た気がする。

 

 

祖父はどうやら酒のアテが欲しかったらしい。

早速酢だこさんを開け、素手で引きづり出し、

空に向けた口に、あの華奢な酢だこさんを押し込んだ。

そして間髪入れず、シルバーのビール缶を煽った。

 

祖父は顔をしかめて

『あぁ〜っ!』

『生臭えぇっ』

 

勝手に奪い、勝手にマズがってる。

めっちゃ勝手。

 

まぁ祖父の金だからいいのか?

 

悔しかったから、酢だこさんの包装を折り畳み、歯で中の調味液を搾り出す裏技は教えない。

そう思ったのが当時の思い出。

 

 

悔しいが、どうしようもない複雑な気持ち。

 

私は心の中でそう言う状態を酢だこさんと呼んでいる。

 

 

そして、大人になり未だ大好きな酢だこさん。

晩酌のアテには生臭い。